どうかくるしまないで

 

お久しぶり。そうなの、調子がよくないの。
朝起きたときが一番つらくて
まるで一日を閉じるときのようにぐったりしているのだけれど、
そのまま時計の針が何周もするのを見つめてずいぶん陽も傾いた頃
いやに響く痛みがじくりじくりと背中を覆っていき、
いつしか体と痛みとの境目が消えていく。
まるでわたしが痛みそのものになるような。
好きなドラマに出てくる女の子が、
タトゥーを入れた理由をこう言ってた。
ティーンの頃にすごく太ってて自分の体を好きになれなかったから、
支配したかったんだって。
支配。いつだって精神は肉体を凌駕するって思い込んできたけど、
そうじゃないんでしょうね。
対立するようにあるものではなくて、ひと続きのものなんだなって
遅いでしょ、いまようやくちゃんとわかるの。

 

場をもたせるためにしたくだらない話に
「もうくるしまないで」とそのひとは言い、
あなたとこうして同じテーブルに座っていなければ
余計な苦しみは増えなかったろうとわたしは思う。
さざなみの音を立てるシンバルを聴きながら
ピアノが入ってくるのを待って、
夜が始まるのを感じる。
楽器から弾けて生まれる明るい星が好き好きにささやく。
鎮痛剤をアルコールで流し込むのはやめて、
チャーミングに奏でられる音と一つになってこの空間を満たせたらどんなにいいか知れない。
神業を披露するドラマーにもよく訓練されたウエイターにも
あなたにも見えないわたしになって、だけどたしかにここにいる。

 

くるしまないで。
そのもどかしい労わりとも一つになれたなら
痛みのない夜とわたしは同じ体になり、
誰にも咎められない自由を手に入れて
ようやくそっと神々しいあなたを抱くだろう。
でもそうはしないから、どうかくるしまないで。

 

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