Beautiful beyond description, it’s you.

 

人生なんて夏同様寝倒してしまいたいのに
きんと冷えた部屋で神経がチカチカ、
夜の長さにふと気を失ってしまいそうになるのに
まぶたの奥には線香花火がぱっと咲いて、
わたしをこちらの世界から救い上げてくれないくれないくれないくれな/cut.
 

こんなのなんてことないのに、
毎晩錠剤を流し込んでベッドに入るわたしを
悲しそうな目でやんわりたしなめるあのひとはかわいかったな。
でも急速に意識を失う前に訪れるわたし一人だけのたのしみは
壊れていくことのたのしみだったから、
もしその後ろ暗さを感づかれていたのだとしたらそれはwelcomeからはずいぶん遠/cut.
 

 unnamed
 

「季節外れの風邪を引いてね。
こないだ、子供の頃に通っていた病院にお世話になったんだよ。
幼い頃、病院には行くとかいうよりも通うといった方が適切なくらい病気がちだったんだ。
きっと20年ぶりくらいだったと思う。
院長先生と奥さんである婦長さんは記憶にあるまんまで、
変わっていたことといえば院長先生の髪が真っ白になってたことくらいかな、
とにかく昔からにこにこしたいい人たちだった。
診察が始まって1分もしたかな、してないかな、
そのくらいで院長先生の横にいた婦長さんが声をあげた。
『ーーくんって、あなた、あのーーくん?
喉が弱くてよくお母さんとここに来た…あの僕なのね?』
院長先生が『あれを持ってきなさい』って言って、
婦長さんはそれに『ええ、返さなくちゃいけないもの』と応えて奥の部屋に引っ込むと
しばらくして右手に傘を持って現れた。
間違いなく僕の傘だったよ。
20年ぶりに返ってきた、それはたしかに僕の傘だった」
 

いい話ね。
何がいいって、あなた、それはあなたが20年の間彼らの中で
ずっと生きた存在だったこと、それに尽きるわ。
きっと数ヶ月に一度か一年に一度、
掃除のたびに老夫婦はこの傘を見つけてあなたのことを思ったに違いない。
もちろん大層なことを思ったわけじゃないと思う、
でも、いつか返してあげようと少しでも思ってその傘を保管していたのだから
その行為の奥にはあなたがこの世界で確かに生きていることを
願っている存在がいたことになる。
いいことね。
それはとてもとてもいいことよ。
 

まどろみに落ちていく間際、
分断されない物語を思う。
長い長い間続く物語があって、
それがわたしの存在に少しだけ願いをかけてくれているものであったなら
眠りの足りない身体にも安らぎが訪れるかもしれない。
 

わたしが彼の家に置いてきた傘はきっと返ってこない。
捨てられてしまったんだろうけれど、
夢を見るのが自由なら、
わたしは傘が自分の手に返ってこない理由を別のところに見出す。
返ってこなくていいの。
だって傘を返してもらったらそれで終わり、
あなたはもう、掃除や片付け、引越しのたびに
わたしを思い出して少し重い気持ちになってくれることもなくなるだろう。
 

たくさんの返ってこないものを思って
その死骸を想像することはたやすくても、
いつだって消え入りそうな願いにすがる悲しみの方を選んで/cut.cut.cut…

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