7月5日

 

温度が飛ぶ。
わたしの手からこぼれ落ちる。
さらさらと消えて。
 

そうであって、
どうかそんな簡単なものであってほしかった。
たった一度の失恋のあとに感じるように
飛び、こぼれ落ち、消えてほしいと願ったことさえあったけれど、
シーツに体温を残したまま瞼を拭ってまどろみから覚めるとき
スープで満ちたスプーンの先を唇にあてるときにさえ、
あなたに流れたたしかな血を思って、涙は枯れることを知らなかった。
 

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幼いわたしをきつく抱くその腕は
いつも日に焼けて、
洗濯を繰り返してくたっとしたポロシャツからは
いつだってお日さまの匂いがして、
あなたはわたしの強くやさしいヒーローそのものだった。
 

「あの子は成績優秀で、
サッカーをやっても野球をやっても花形で、
人懐っこい笑顔と日に焼けた顔に映える白い歯のおかげで女の子にモテてモテて」
そう繰り返し祖母に聞かされた武勇伝は
体育祭の父兄参加のリレーでほんとだったんだろうと確信して、
幼心に覚えた嫉妬が懐かしい。
 

いつからか複雑に絡まり、曇っていってしまった愛情は
いまや涙に洗われきっと本来の色を取り戻し、
あなたは永遠に触れることの叶わないわたしの初恋の人として
ずっと生きている。
お日さまのにおいがして、温かいまま。
 

お父さん、おやすみなさい。
毎年このくらいの季節の夕焼けは美しく、
静かな夜を連れてきてくれますね。
次におはようを言うのが1000年あとでも、
あなたの声を聞く朝がいまから愛おしく、たのしみです。
 

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7月5日」への2件のフィードバック

  1. はじめまして。

    なくしたものと、それでもなくせないものとがあって
    それが生む様々な気持ちと一緒に生きることが
    つらくも豊かだと
    思っていたところに偶然目にすることが出来て
    心に届きました。

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    • はるのさん、はじめまして。
      ご丁寧に、しかも美しいコメントをくださってありがとうございます^^
      一度も御目にかかったことのない方の琴線に触れることができるなんて、
      こんなにうれしいことはございません。
      喪失に付随する事柄にさえ豊かさを見いだせる
      しなやかなはるのさんのお姿が思われて、とても柔らかな気持ちの溜息をつきました。

      いいね

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