Certainly I was your

 
フェンダーUSAのジャズベースは彼のもっとも美しい恋人で、
だから一度だけ触ってみたいと言うのにはとても勇気を要したけれど、
思いのほか彼はにこやかに、そして丁重に、わたしの骨身に取り憑く重みをあずけてくれた。
 

彼はわたしの背中でストラップを調整し終えるなり
「なかなかさまになってる」と言ったけれど、
割れた姿見に映ったわたしとジャズベはあまりにもちぐはぐで、
だからこそわたしはその拙い賛辞を彼の特別な好意と受け取った。
 

lota
 

出順まではあんまり飲んじゃダメなんだ、
と言う彼とタバコの煙で目がしぱしぱする暗い廊下にべったり座り込んで、
コロナの瓶にライムを押し込む。
三口も飲むと彼はすっかり顔を赤くしてふにゃふにゃと笑った。
 

教室での優等生然としていた佇まいは
ここではすっかり消え去るのかと思っていたが、
なんだ安心。
彼はいま模範的な優等生ではなくとも、
いつものキャラクターから期待される程度のはめの外し方をしている。
 

あなたっていい子だよね。
男のひとはみんな「悪いひとね」と言われたいだろうから、
わかってはいたけど彼は少し傷ついた顔をした。
「そうでもないよ」と唇を尖らせながら
転がっていたペンを取り、
床に伏してタイルに何か書き始める。
 

それ油性だよ。
知ってるよ。
 

彼の名前とわたしの名前が六角形のタイルに並ぶのを見て、
我慢できずに声を上げて笑う。
わかった、わたしが間違ってたね。悪いよ、すっごく。
ますます拗ねてしまうかなと思ったけれど、
彼は満足げに油性ペンのキャップを閉めて立ち上がる。
 

じゃあ準備してくるから。
 

軽々とジャズベを背負って進む後ろ姿は逆光になり、
わたしは冷たいタイルとコロナ二本とともに永遠に取り残される。
 

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