ずっとすくすく、元気でね。

 
緑生い茂る山の麓の大きな家にいて、
道路を挟んで濁った川が広がる単調な景色に飽いていた頃。
父と、母と、姉弟三人だけの小さな世界にいた頃。
 

家族揃ってどこかにお出掛けをするという休日、
父と弟たちとわたしの四人は車を出した道路で支度の遅い母を待っていた。
母を呼びに行こう、もう出発しようって言おう、
そう思って玄関に入ろうとした瞬間
鈍くて思い、けれど勢いのある大きな音がした。
振り返ると弟がゆっくり宙を舞っているところで、
あ、という声すらでなかった。
地面に叩き付けられた弟は瞬時に泣き叫び、
おでこと膝から血を流していた。
 

母は後にあのときのことをこう語った。
「家のことを片付けて、さあ出ようかなってところでね、
ばーん!てもう聞いたことのないような音がして、
あのとき、『ああ、だめだ』って真っ暗になったの。
でもすぐに火がついたような泣き声がして。
ああ、よかった、って。
生きてた、って」
 

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生きててよかった。
そう語る母の笑顔にはなんの嘘もないのだけれど、
わたしは心の薄暗いところにひやっとしたものをあてがわれたような気持ちで思う。
 

ねえお母さん。
事故の音がしてから泣き声を聞くまでの数秒、
誰だったらいいのになんてことを思った?と。
 

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