今日の手触り

 
「セックスのとき全部服を脱ぐのなんて、
相当身体に自信がある人だけだよ」
 

早熟ぶったあの娘が輪の中でそう断言したとき、
わたしたちは心の中で感じるざわつきを無理矢理押し込めて
そういうものなんだ、と互いに頷き合った。
 

その娘はみんなをぐるりと見回し、
満足した様子で自分の体験を語る。
それは三カ月ほど前から始まった関係であり
たいていは彼の家の彼の部屋の彼のベッドで行われるが、
その娘の両親が家を空けるときには
舞台は彼女の家の客間、もしくはリビングになることもある。
 

「リビング?」
「そう、リビング」
 

その娘はあっけらかんとした言葉の響きを保てるよう
きっと細心の注意を払いつつも、
その下にある嫌気がさす日常と家の抑圧を乱してやりたいという
ありがちな若い気持ちを隠し切れていなかった。
 

IMG_1976
 

怖いのは最初だけだから
そんなにたいしたことではないのだと講釈しつつ、
けれども想像に反して両手で数えられるうちは
毎回鈍い痛みがつきまとったと言い、みんなを脅す。
 

「男にはそういうのはないの?」
「ないよ。痛いのはわたしたちの方だけ」
 

いつか訪れる痛みとそれを受け止めてもらえないかもしれない孤独に
やんわりとした不安を覚えながら、
この話は床に沈み込んで見えなくなるかのような変な終わり方をする。
見回りの先生が早く帰れと急かすから
椅子を片付けて、全員だらだらと外に出る。
夕焼け空の遠くは青く澄んでいて、
夜になるまでにはまだまだ時間がありそう。
 

下駄箱で手を振ってそれぞれの帰路につき、
わたしはいつも一緒に帰る娘とふたりっきりになった途端
顔を見合わせる。
 

「あの娘、服着たまましてんの」
「ご飯食べるとこで」
 

ふ、と吹き出すとそこからもう止まらなくなって、
ふたりで笑い転げる。
何を着て何を脱いでるの?とかどこを出してるの?とか
言いながら、誰の目を気にすることもなくげらげら笑う。
 

誰がそんなこと教えたんだろ。
相手の男じゃん?
でもほんとにそんなもんなのかな。
そんなもんでもそんなもんじゃなくても、
中途半端に脱ぐくらいなら真っ裸になったほうが全然まし!
 

話はいつのまにかお腹がすいたこと、
ダイエットがうまくいかないこと、
ロッテリアのふるポテの中で一番おいしいのは何味か、
なんてことに変わり、
この身体とこの命が誰のものでもなく
ただ自分たちだけのものであるという確かな手応えを感じながら
さよならを言う。
 

さよならまた明日。
いつか知らないわたしがそこにいるとしても。
それでも確かに今日は、今日のわたしだったから。
 

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