酷薄。
自分を好いている男に、かつて愛した愚かな男の話をすること。

不遜。
熟れていく果実に手もつけずに、
やがて腐り落ちてしまうまでただ見つめる楽しみ。

傲慢。
若さを嗤うこと。

 
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赤い提灯もお囃子も、夜店とそれに群がるひとたちの声も
夜闇にまぎれてかすれるように遠くへ消えて、
ここにはただ二人きり。
隠そうとはしても、浴衣から漏れる体温は浮き上がるよう。

 
ヨーヨーが水の重みでふらふら揺れて
赤い爪をつけた中指を下に下に引っ張るし、
もう片方の手では少し湿った髪を何度も何度も耳にかけながら喋るものだから、
もともと途切れやすいわたしの集中力はすでに続いていない。
 

なだらかに油が落ちるような時間が過ぎて、
少年の肩をした彼はなんとか体温が重なる距離を探そうとしている。
わたしはいつも右目の涙袋の下にだけ入ってしまう
ファンデーションの筋が気になって、そっと人差し指で拭う。
そして彼がまだしたことのないであろう
不幸せな恋の話をだらだらと続ける。
 

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「まだそのひとを好きなの?」
「まさかね」
 

かすかに震えをたたえた声で
「僕は」
そう切り出した彼は
「僕は、あなたを傷つけたやつをぶん殴ってやりたいよ」
と決意めいた顔でわたしを見つめるので、
この紳士に敬意を表するために
緩みそうになる唇をいましめようと強く噛む。

 
「あなたに敵う男なんていないでしょうね」
 

僕の勝利はあなたのためだ、と熱っぽく語る純真に背く
紅を塗った唇、浴衣に薫きしめたお香、
そして、悪。
 

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