チクタクチクタク

 
—愛してる

カシミヤのカーディガンの袖を
指先まで伸ばして着る季節になったから、
温もりがわたしの側に留まっていた頃のことを
また思い返してしまう。
 

けれど本当の哀しみはすでに枯れて、
乾いた金色の砂が
胸のなかで風に吹かれている。
 

ねえ
ひとの哀しみなんて
どうせ続いたって100年かそこらだよ。
 

ー潮騒
 

ほんの数分、落ちるように眠った。
時計の秒針がカチカチと鳴っていて
わたしはそれを絶望的な気持ちで聞いているのだけれど、
誰かが言ってくれた。
 

「前に進むときにだけ針が音を立てるだなんて、
誰が決めたの。
これは後ろに巻き戻るときの音だよ」
 

目を覚まして、
11月には薄手すぎるワンピースを着て
わたしは東京の街に繰り出す。
 

IMG_1359

 
ー探し物
 

高いヒールで地下鉄の階段を下りるとき
誰かわたしの手を引いてと泣きじゃくりたくなるような
心細さは、
父と母に連れられてデパートに行ったのに
いつのまにやら温かな手を失って
ひとりピカピカのフロアをさまよったあの頃の不安と
きっとそんなに変わらない。
 

ー東京
 

8㎝のヒールが立てる小さな音。
スカートのスリットから覗く肌に感じる冷たい空気。
コートに残った香水の香り。
地下鉄のホームの鏡に映った自分は、
まるきり東京の女らしくすましていた。

 

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