アコヤガイ色の空

 
あたたかみのある橙、
とろとろした舌触り、
ゆっくり広がる味わいの、
にんじんのスープを飲みたくなった。
 

にんじんを求めてスーパー目指して家を出ると
外気はやわらかく湿り気を帯びていて、
生温かな風は泣いている子どもが発するときの
あの独特の熱をはらんでいて、
家にこもりがちなわたしに人見知りした五月は、雨を呼んでいた。
 

このまま駆け足でスーパーに行ってしまおうか、
それとも傘を取りに家に戻ろうか、
いや、そもそももう買い物は諦めてしまおうか。
その場ですこし足踏みをして、
それからため息をつきながら家に戻り、
結局傘を手にしてふたたびスーパーを目指した。
 

IMG_2769
 

しばらく行くと、
やや落ちかけた太陽の光が雲を透かして注ぎ、
ふんわりした色調が街を染めた。
夕暮れのピンクと白い雲を擁した水色の空は
たまらなく豊かな風合いを醸している。
傘がぱたぱたと軽い音を立てて
コンクリートから雨の匂いが立ち上るのと
わたしの右手の甲が水滴をとらえたのは、
きっと同じくらいだったと思う。
 

お天気雨か、と少し頬が緩んで視線を遠くにやると、
タイルのような細かい鏡がつらなった壁面のビルが目に入った。
その一枚一枚に精妙な色合いの空と
黄金の光が映り混んでいて、
まるでアコヤガイの内側のようにきらきらと輝いている。
 

足を止めて、深呼吸をした。
すこしの躊躇を押し切って得られたご褒美はあまりにも大きく、
体の内側から喜びが湧き上がるのを感じた。
美はたしかにこの世に在って、それは心地よく、それは善だった。
 

さて。
にんじんのスープですが、ちゃんとおいしく仕上がりました。
甘い新タマネギががんばってくれていた。

 

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